研究内容

アメリカの国立小児保健・人間発達研究所 (NICHD) が行った長期追跡縦断調査の結果、発達早期の家庭内外における保育養育の質は、その後の子どもの適応や自己制御能力に影響することがわかるようになってきました。

我が国でも将来の人材育成は国の成長戦略の一環であるとの認識から、義務教育前への投資に関する関心は高まっていますが、我が国の保育や家庭の場に置いて応用可能な具体的知見はあまり明らかにされておりません。

モニタリング (parental monitoring) とは、“子どもの居場所、活動や適応を追跡し注意を払うことを含む一連の養育行動” (Dishion & McMahon, 1998)、つまり、子どもに関する様々な事柄について把握するために行う親の行動全般を指します。ほとんどの親は、子どもに言葉かけを行いながら、一緒に行動しながら、あるいは子どもが気がつかなくても日常的にモニタリングを行っているのではないでしょうか。

アメリカやアメリカ以外の国において、親が青年期の子どもの興味・関心・友人・居場所をよく把握している場合、その子どもの問題行動(リスク行動・非行・犯罪)が少ないという結果が繰り返し検証されています。日本の中学生から大学生の子どもを対象とした内海 (2012) の研究においても、年齢にかかわらず、「親が自分のことをよく知っている」と認識するほど子どもの問題行動(未成年の飲酒喫煙)が少ないという結果が出ています。

小さな子どもを持つ親は、子どもの生命、安全・健康を守る場面や状況で頻繁にモニタリングを行うことでしょう。乳幼児期に子どものことによく気が付き、よく把握している親であれば、児童期や青年期にも引き続き目を離さないというように、「発達的な連続性がみられる」(Dishion & McMahon, 1998)ことが推測されます。

一方で、日本の子どもたちの9割以上が、就学前に幼稚園・保育園・こども園などの保育・教育施設に通っています。長時間保育を前提とした保育所保育指針には、「子どもの活動が豊かに展開されるよう、保育所の設備や環境を整え、保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること」(第一章「保育の環境」) と記されており、認定こども園教育・保育要領解説には、特に配慮すべき事項の中に「園児の健康及び安全」の項目が含まれています。幼稚園教育要領解説においても、五領域「健康」の他、特に留意する事項として、「安全に関する指導」の項目が記載されています。つまり、養護に直結する部分としてどの施設においても必要最低限満たされなければならないのが、安全と健康です。

また、少子化が著しい現代社会では、保育・教育施設には子どもの自立性の育ちや、ルール・マナーの学びの場として、家庭・地域から大いに期待されています。ヒヤリハットを防ぐための設備改善や知識習得を中心とした安全面健康面での取り組みに関する研究は盛んですが、保育者と子どもとのかかわりに関する実態はあまり研究されていません。保育の場では、親子1対1のかかわりが中心となる家庭とは異なったアプローチや取り組みの存在があるのかもしれません。

実は、幼い子どもを親がどのようにモニタリングしているのか、そして、よく大人からモニタリングをされ続けている子どもの問題行動がなぜ少ないのかについては、あまり明らかにされてきませんでした。仮説の一つとして、モニタリングを行う際大人が子どもの自律性や自己制御力を高める何らかの支援を行っていることが考えられます。

本研究の目的は、幼児期における保育および養育の「質」の一側面として、養育者と保育者のモニタリング行動を取り上げ、質的研究と量的研究を組み合わせることにより、モニタリングに関連する規定因と子どもの自己制御へつながる機序を解明することです。

発達の早い段階でモニタリングの実態や子どもの適応との関連の仕方を解明できれば、安全や健康を自分で守ろうとする子どもの自己制御する力を育むために、親や保育者、周囲の大人は、どのような点に配慮すればよいのか、どのようなかかわりをすればよいのかが見えてくるのではないでしょうか。

以上の学術的背景やこれまでの研究成果をもとに、本研究では、幼児期の養育・保育における養育者と保育者のモニタリング行動の具体的内容と、それぞれが子どもの自己制御に関連するプロセスを調べます。観察と面接を中心とした基礎的研究と、質問紙を用いた量的縦断調査による応用的研究を行い、家庭・保育の場でのモニタリングを高める実践や取り組みへつなげます。

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